都心の閑静な高級住宅街のイメージ
不動産取引の現場 2026.03.31 公開
#不動産取引の現場 #都心不動産 #高級住宅地

渋谷区の宅地12億円|高級住宅地は本当に住みやすいのか

この記事でわかること

Q. 都心の高級住宅地は生活に不便ですか?
A. 地価の上昇に伴い、スーパーや飲食店が採算を取れず撤退するケースが増えています。表参道では2019年にピーコックストア青山店(54年の歴史)が閉店し、港区議会で買い物難民が議題になりました。高級スーパーは残りますが、日常的な価格帯の生鮮食品を扱う店は限られます。住所のブランドと日常の利便性は必ずしも一致しません。
Q. 同じ予算なら土地とタワーマンション、どちらがよいですか?
A. 目的によります。眺望や共用施設、セキュリティを重視するならタワーマンションが優れています。一方、プライベートな空間や外出の気軽さを求めるなら戸建てに分があります。渋谷区で100坪超の宅地が12億円、同程度の広さのタワーマンションが20億円前後という相場感で、資産性・流動性も含めて総合的に判断すべきでしょう。
Q. 地価が高いエリアでなぜスーパーが撤退するのですか?
A. 主に二つの原因があります。第一に、1960〜70年代に建てられたビルが老朽化で建て替え期を迎え、テナントのスーパーが退去を余儀なくされること。第二に、建て替え後は賃料が跳ね上がるため、薄利のスーパーは戻れず、高単価テナントだけが入居する構造になることです。2026年2月にも港区でピーコック3店舗が相次いで閉店しています。

渋谷区の住宅街で、宅地12億円。送られてきた未公開情報を見て、思わずため息が出た。

昨年仲介した19.5億円の案件よりはだいぶ下がるものの、こちらも渋谷区の閑静な住宅地だ。周囲は一軒家ばかり。100坪超あるから、プラン次第で戸建てだけでなく小規模なビルも検討できるかもしれない。

しかし、東京都心部の不動産価格はとにかく高い。渋谷区に近い港区あたりでも同水準の土地案件を扱ったことがあるが、高い土地に豪邸ばかりが並んでいるかというと、そうでもない。実際に歩いてみると、のび太の自宅みたいな素朴な家もあったりする。

レインズに載らない物件に「相場」はあるか

実際の取引価格を見ていると、「あの場所でこのくらいなのに、ここでこんなにするの?」と思うことがある。

レインズに載らないような物件だから、相場なんてないも同然——は言い過ぎだが、それに近いと感じることは多い。レインズの記事でも触れたが、超高額帯の物件は比べられる事例がほとんどなく、価格は査定ではなく「その金額で買う相手が見つかるかどうか」で決まる。

土地12億円とタワーマンション20億円

この100坪超の宅地と同じくらいの広さをタワーマンションで確保しようとすると、20億円程度はかかる。

土地とタワーマンションを単純比較するのは乱暴だが、目的によるだろう。

景色を楽しみたい、機能的な住まいが欲しいならタワーマンションに限る。 高層階の眺望は戸建てでは逆立ちしても手に入らない。コンシェルジュ、ジム、ゲストルームなどの共用施設、24時間体制のセキュリティ——マンションならではの機能が揃っている。

一方、プライベートな空間を求めるなら戸建てのほうが上かもしれない。 上下左右に他の住戸がなく、庭も持てる。何より、エレベーターを待たなくていい。玄関を出ればすぐに外だ。その気軽さは、日常的に外出する人にとっては無視できない。

もっとも、セキュリティに関しては戸建てはタワーマンションにどうしても劣る。

地価が上がると、店が消える

本題はここからだ。

あまりにも地価が高くなると、家賃も上昇し、採算が取れない商売が出てくる。安くて数をさばく店は真っ先に姿を消す。そして困るのは、そこに住んでいる人たちだ。

表参道のピーコック——54年の歴史に幕

当社のオフィスがある表参道でも、ちょっとした買い物はコンビニくらいしかできない。

その典型が、ピーコックストア青山店だ。1964年に大丸ピーコックの関東進出1号店としてオープンし、54年間にわたって南青山の食卓を支えてきた。それが2019年2月、入居ビルの老朽化を理由に閉店した。

閉店後、港区議会でこのエリアの「買い物難民」が議題に上がった。港区が開発事業者にスーパーの誘致を頼み込むほどだった。

「表参道に買い物難民なんて大げさだ」と思うかもしれない。たしかに、成城石井や紀ノ国屋インターナショナルはある。しかし、日常的な価格帯で鮮魚や精肉を買える店は限られていた。高級スーパーは残り、普通のスーパーが消える。これが都心で起きていることだ。

ナチュラルハウスも、ピーコック3店舗も

ピーコック青山店だけではない。表参道で30年以上営業していたナチュラルハウス青山店も、2024年3月に閉店した。

さらに2026年2月には、港区内でピーコック恵比寿店(1975年開業)、ピーコック三田伊皿子店、ピーコック高輪魚籃坂店の3店舗が相次いで閉店している。恵比寿店と高輪魚籃坂店は、いずれもビルの老朽化による建て替えが理由だ。

1960〜70年代に建てられたビルが一斉に建て替え期を迎え、テナントのスーパーが退去する。建て替え後のビルは賃料が跳ね上がるので、薄利のスーパーは戻れない。高単価のテナントだけが入居する。

この繰り返しで、都心から日常の買い物の場が消えていく。

ランチ難民と行列の立ち食いそば

スーパーだけの話ではない。

表参道周辺では「ランチ難民」の話題で盛り上がることがある。オフィスワーカーにとって、手頃な価格で昼食を済ませる場所が少ないのだ。青山通りの立ち食いそば屋は、いつも行列ができている。

家賃が高すぎて、低価格帯の飲食店は出店しても長く続かない。2024年の飲食店倒産件数は過去最多の894件を記録しており、人件費・原材料費・家賃の三重苦が続いている。こういう場所ほど、その影響は大きい。

「住みやすさ」とは何か

農林水産政策研究所の推計によれば、食料品アクセス困難人口は東京圏で89.2%増加している。買い物難民は過疎地だけの問題ではない。

高級住宅地や都心ブランドは外から見ると魅力的でも、実際には生活インフラが痩せていく。住所の格は上がり、地価は上がり、しかし日々の暮らしに必要な店は減っていく。

住みやすさとは人それぞれだろう。道路がゆったりして渋滞もめったにない郊外に一度住んでしまうと、都会の道の細さと渋滞のすさまじさがとても不便に感じられる。都心では歩いて済ませることが多い。健康的だと思えばそれまでだが、歩いた先に目当ての店がなければ、それは健康的な散歩ではなく、ただの徒労だ。

12億円の土地を見ながら考える。この場所に住む人は、毎日の買い物をどうするのだろうか。


当メディアの記事は実務経験に基づく解説です。個別の投資助言を目的とするものではありません。

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