不動産購入を装うP2P仮想通貨詐欺|SNS経由の紹介に潜むリスク
この記事でわかること
Q. 不動産購入を装った仮想通貨詐欺とはどういう手口ですか?
Q. どのような点で詐欺だと見抜けますか?
Q. 仲介会社として詐欺の疑いがある場合どう対応すべきですか?
Q. 仮想通貨を使った不動産関連の詐欺は他にもどんな手口がありますか?
当社の不動産パートナーからの顧客紹介だった。
そのパートナーは10代で起業し、学生でありながらすでに会社を3つ経営する若手事業家だ。SNSで知り合った人物から「マンションを購入したい」と相談を受け、当社に紹介してきた。
紹介者が信頼できる人物であることは疑いなかった。ただ、社会人経験がまだ浅い。相手の素性を十分に確かめずに紹介してしまったようだ。そこから小さなお祭りが始まった。
まずはオープンチャットで
やり取りは、LINEのオープンチャットで始めた。オープンチャットなら互いのIDをさらさずに済むので、相手のプライバシーを守れる。話が進めば本人確認も必要になるが、初期段階ではこちらのほうが都合がいい。LINEグループは1人あたりの参加上限が1,000件で、案件ごとにグループを作っているとすぐに上限に達しかねない。オープンチャットならその制約もない。
ところが、先方はすぐにLINEグループを作ろうとしてきた。オープンチャットがあるのに、なぜわざわざグループを組むのか。当時は不思議に思っただけだったが、後から考えれば当然だった。オープンチャットでは個人のLINEアカウントにたどり着けない。個別につながることが目的なら、匿名のオープンチャットでは意味がないのだ。
条件は、一見まともだった
先方が提示した希望条件は以下のとおりだ。
- 物件タイプ:マンションまたは一戸建て
- 使用目的:自宅用
- 面積:60平方メートル以上
- 駐車場:1台(SUV対応可)
- 予算:約1〜2億円
- 最寄駅から徒歩10分以内
都内で自宅を探している外国人——珍しい話ではない。条件も具体的で、予算感も現実的だ。いくつかのマンションをリストアップして送った。
最初の違和感——オーナーチェンジ物件
リストの中で先方が食いついたのは、オーナーチェンジ物件だった。
送った瞬間、しまったと思った。投資用の物件を間違えて含めてしまったのだ。ところが先方は「ここには住人がいるか?」と聞いてきた。
資料に書いてある。日本語がまったく読めていない。
それはいい。外国人なのだから、日本語が読めなくても不思議はない。しかし「賃借人が入居中です」と回答したのに、「見積をくれ」と返ってきた。
自宅用だと言ったはずだ。賃借人が住んでいる物件を買って、どうやって自分が住むのか。ここで小さな違和感が灯った。
本題はUSDTだった
その直後、個別のLINEにメッセージが届いた。
最近USDTの投資を考えているんですが、今ちょっと資金が足りなくて… もしUSDTを持っている方をご存知だったら、紹介してもらえませんか? 日本円の現金で交換する予定で、手数料もお支払いできます。 うまくいけば、今後も長くお付き合いできればと思っていて、毎回の交換額の1%をお礼としてお渡しするつもりです。
これは私だけでなく、紹介者の若手パートナーにも、当社の営業マンにも送られていた。
USDT(テザー)は米ドルに連動するステーブルコインだ。取引所を介さず個人間で日本円と現金交換するP2P取引は、マネーロンダリングの温床として知られている。不動産仲介者に「持っている人を紹介してくれ」と言ってきた時点で、目的は明白だった。
物件探しは信頼関係を築くための撒き餌だ。本当の狙いは、不動産仲介者が持つ富裕層ネットワークへのアクセスだった。
断ったら、今度はリフォーム業者
やんわりとUSDTの話を断った。すると今度は、「不動産を購入した後のリフォームをしたいので、業者を紹介してほしい」と言ってきた。
オーナーチェンジ物件を買うのに、リフォームとは何のことだ。賃借人が住んでいる以上、勝手に改装はできない。そもそもまだ物件も決まっていない。
結局、「紹介」さえしてもらえれば何でもよかったのだ。不動産、USDT、リフォーム業者——口実を変えながら、人脈のネットワークに入り込もうとしていた。
ここで、これは詐欺だと判断した。
誰も損をしなかった
結果として、被害はゼロだった。
紹介してくれた若手パートナーは、いちばん肝を冷やしたようだ。ただ、当社は特に迷惑だとも思っていない。彼にとってはいい勉強になったはずだ。
当社の営業マンは「久々にこういうのが来た」と言っていた。いい訓練だ。私としても、記事のネタがひとつ増えた。
全員が経験値を得て、金銭的な被害は誰にもない。見抜けなかった場合を想像すると背筋が寒くなるが、今回は早い段階で違和感に気づけた。
見抜くための三つのポイント
今回の経験から、仲介の現場で意識すべき点を整理する。
第一に、「目的」と「行動」の矛盾を見逃さない。 自宅用と言いながらオーナーチェンジ物件を選ぶ。資料を読めていないのに見積を要求する。小さな矛盾でも、積み重なれば確信に変わる。
第二に、不動産以外の金融取引の依頼には警戒する。 物件の話をしていたのに、突然USDTの現金化パートナーを探してきた。不動産仲介者の人脈に目をつけたアプローチだ。本業と関係ない依頼が来た時点で、相手の本来の目的を疑うべきだ。
第三に、紹介だからといって信用しない。 今回の紹介者自身は信頼できる人物だった。しかし、紹介者がその先の相手を十分に確認しているとは限らない。特にSNS経由の出会いを介した紹介は、身元確認の鏈が途切れやすい。
身元確認は仲介者の生命線
不動産取引における本人確認は、犯罪収益移転防止法(犯収法)で義務付けられている。宅建業者は取引時に顧客の本人確認を行わなければならない。
しかし法律以前に、身元確認は仲介者としての信用を守るための生命線だ。素性のわからない相手を取引に巻き込めば、最悪の場合、自社がマネーロンダリングの片棒を担ぐことになる。
今回は早い段階で気づけたから笑い話で済んでいる。しかし、もう少し巧妙で、もう少し長く信頼関係を作られていたら——簡単に見抜けたとは断言できない。
不動産は動く金額が大きい。だから詐欺事件も少なくない。今回のようなSNS経由の小細工から、土地の所有者になりすまして売却代金を騙し取る地面師まで、実際にいるのだ。
だからこそ、小さな違和感を無視しない。それが仲介の現場で身を守る唯一の方法だ。
本記事は実体験に基づいていますが、プライバシー保護のため一部の詳細を変更しています。個別の投資助言を目的とするものではありません。


