レインズに載っている超高級物件の正体 — それは「売り急ぎ」のサイン
この記事でわかること
Q. 超高級物件がレインズに載っているのは珍しいことですか?
Q. レインズに大量に掲載されているマンションは何を意味しますか?
Q. 業者間取引価格と一般向け販売価格はどれくらい違いますか?
レインズを眺めていると、たまに目を引く物件があります。都心一等地、数億円台後半、築浅のブランドマンション。一般の買主なら「珍しい物件が出た」と色めき立つかもしれません。
業者の反応は違います。「あー、載っちゃったか」。
前回の記事で触れたとおり、超高級物件の多くは未公開で流通します。売主のプライバシー保護、買主の選別、価格コントロール——それらを放棄してまでレインズに載せるということは、「早く売りたい」という意思表示です。
レインズ掲載=お買い得、ではありません。むしろ「なぜ載っているのか」を読むべきです。
レインズ登録の仕組み
レインズ(Real Estate Information Network System)は、国土交通大臣が指定する不動産流通機構のデータベースです。宅建業者が物件情報を共有するためのシステムで、一般消費者は直接閲覧できません。
登録義務は媒介契約の種類によって異なります。
- 専属専任媒介契約 — 契約締結日の翌日から5営業日以内に登録義務あり
- 専任媒介契約 — 契約締結日の翌日から7営業日以内に登録義務あり
- 一般媒介契約 — 登録義務なし
ここがポイントです。売主が「静かに売りたい」場合、一般媒介契約を選べばレインズへの登録義務は生じません。未公開物件の多くは、この仕組みで信頼できる仲介ネットワーク内だけで流通しています。
ただし、これは仲介の場合の話です。買取再販業者が自社で買い取った物件を売る場合、媒介契約は関係ありません。業者自身が売主なので、レインズに載せるかどうかは純粋にビジネス判断です。
それでも超高級物件を扱う業者の多くはレインズ掲載を避けます。載せた瞬間に情報の希少性が失われるからです。未公開だからこそ「ここだけの情報」として紹介できる。レインズに出回れば、どの業者でも案内できる普通の物件になります。
つまり、超高級物件がレインズに載っているということは、未公開での販売を諦めた——あるいは諦めざるを得なかった——ということです。
「載っちゃったか」の温度感
業者がレインズで超高級物件を見つけたとき、まず考えるのは「なぜこの物件がここにあるのか」です。よくあるパターンを挙げます。
売り急ぎ。 相続、離婚、法人の資金繰り。時間的な制約があり、買主を選ぶ余裕がない状況です。
未公開で買い手がつかなかった。 ネットワーク内で回したが、条件が折り合わなかった。あるいは価格が高すぎた。最後の手段としてレインズに出すケースです。
買取業者の在庫処分。 高値で仕入れた在庫を未公開で回したが買い手がつかず、広く募集に切り替えた状況です。
仲介会社の方針。 売主がレインズの仕組みを知らず専任媒介契約を結んだ結果、自動的に登録されるケース。超高級市場に不慣れな仲介会社が担当すると起こりがちです。
いずれも、物件のスペックだけでなく「なぜ表に出てきたのか」を読む視点が必要です。
同じマンションが大量に並ぶとき
レインズで見かけるもうひとつの特徴的なパターンが、同じマンションの部屋が複数掲載されているケースです。
あるブランドマンションの事例を紹介します。分譲時の抽選倍率は数十倍。当初の分譲価格は数億円でしたが、直後から転売が相次ぎ、一時は分譲価格の3倍近い金額で取引されました。海外の富裕層にも人気がありました。
ところが今、このマンションはレインズに複数の部屋が並んでいます。
背景には転売市場の構造があります。まず抽選で購入した1次購入者がいます。分譲価格で買っているので、今売っても利益が出ます。次に、数億円の利益を乗せて購入した2次購入者。そしてその先に、さらに高値で仕入れた買取再販業者がいます。
「うちは何戸持ってる」——業者間ではそんな会話が普通に交わされています。
問題は、この連鎖の末端です。高値で仕入れた在庫が想定した価格で売れない。未公開で回しても買い手がつかない。そうなるとレインズに出すしかありません。大量掲載は、そのマンションが投機筋に人気があった——過去形で——ことの証拠でもあります。
こうした超高額物件の転売市場を支えてきたのは、海外——特にアジア圏——の富裕層でした。しかし近年、中国経済の減速や各国の資本規制強化もあり、かつてのような勢いはありません。買い手が減れば転売の連鎖はどこかで詰まり、詰まったところからレインズに物件が出始めます。
「1次購入者は文句なしで儲かっている」。これは業者間の共通認識です。しかし高値掴みした層は、いま出口を探しています。
業者間取引と一般向け価格の乖離
レインズの掲載価格を額面通りに受け取るのは危険です。
たとえば、ある物件が業者間で5億円台で取引されていたとします。業者間取引とは、デベロッパーから買取業者へ、あるいは業者間で在庫を融通し合う形の取引で、一般消費者の目には触れません。
その同じ物件が、数ヶ月後に8億円台でレインズに載ります。差額の数億円は、仕入れコスト、リノベーション費用、利益、仲介手数料の合計です。
この二重構造を知らないと、適正価格の判断を誤ります。「新築時より高いから値上がりしている」ように見えても、実際には業者の利益が上乗せされた価格で、物件の市場価値がそこまで上がっているとは限りません。
レインズ掲載物件の読み解き方
レインズに載っている超高級物件が「買い」か「見送り」かは、物件ごとに判断するしかありません。ただ、読み解くための視点はあります。
掲載の経緯を確認する。 なぜレインズに出ているのか。仲介会社に聞けば、多くの場合は教えてくれます。売り急ぎなのか、未公開で売れなかったのか。経緯によって交渉の余地が変わります。
同じマンションの掲載数を見る。 1部屋だけなら個別の事情かもしれません。複数の部屋が同時に出ていたら、投機筋の処分売りを疑います。掲載数が多いほど、価格交渉の余地は大きくなる傾向があります。
業者間取引の価格を探る。 難易度は高いですが、過去の取引価格を知っている仲介がいれば、レインズ掲載価格との乖離がわかります。乖離が大きいほど、掲載価格には業者の利益が厚く乗っています。
掲載期間を見る。 長期間残っている物件は、価格設定が市場と合っていない可能性があります。あるいは、物件自体に何らかの見えにくい問題があるかもしれません。
超高級物件がレインズに載ること自体は悪いことではありません。ただ、「載っている理由」を理解せずに飛びつくのは危うい。スペックに現れないリスクは、レインズの物件概要書には書かれていません。
当メディアの記事は実務経験に基づく解説です。個別の投資助言を目的とするものではありません。

